資産承継×金融の知識コラム

*本記事の内容は、一般的な情報を基に作成したものであり、特定の金融機関等を指したものではありません。
 詳細については、各金融機関等にお問い合わせください。

公開日:2023/5/23
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親族間売買のメリットや注意点とは?取引の流れや費用・税金の詳細

親子や夫婦といった親族間で不動産を売買することを「親族間売買」といいます。親族間売買は、第三者への売却や無償で取引する贈与にはないメリットがある一方、親族間売買ならではの注意点も少なくありません。

そのため、親族間売買を行う際は、ありがちなトラブルはもちろん、より良い取引になるポイントなども把握しておく必要があります。本記事では親族間売買の流れなどの基礎知識、代表的なメリットと注意点について解説します。

■この記事の監修者

畑中 学

武蔵野不動産相談室(株)代表取締役
「家を守り・家を継承させる」専門の不動産コンサルタント。一族の資産を守る「親子・親族間の売買」に定評があり、年300件超の相談者にアドバイスをしている。宅地建物取引士登録実務講習講師(不動産推進センター)やキャリアパーソン講座講師(全宅連)など不動産業界の講師を歴任し、著書には8万部超のベストセラーとなった「不動産の基本を学ぶ」(かんき出版)など多数、業界紙でもコラムを執筆している。
保有資格:宅地建物取引士/公認不動産コンサルティングマスター/マンション管理士/NPO法人相続アドバイザー協議会認定会員
武蔵野不動産相談室(株)のHPはこちら

親族間売買とは?

親族間売買とは、親族間で不動産を売買することを指します。一般的には個人間での不動産取引のうち親子や夫婦、兄弟姉妹間での売買になります。ただし、税務署は親族間売買における「親族の範囲」を明確に公表していません。そのため親族間売買を行う際は民法上の「親族」を参照するケースが一般的です。

■親族の範囲(民法第725条)

  • ・配偶者:妻、夫
  • ・6親等内の血族:【自分の】子ども、孫、ひ孫、祖父母、叔父・叔母、いとこ など
  • ・3親等内の姻族:【配偶者の】親や祖母、兄弟姉妹 など

※出典:厚生労働省「親族の範囲について」
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/11/dl/s1102-8f.pdf

親族間売買と一般的な個人間取引との大きな違いは、税務署による「みなし贈与」のチェックに注意する必要があることです。みなし贈与とは、親族間売買を売買ではなく「贈与」とみなして贈与税を課されることを指します。

親族間売買は第三者との取引と比べると、買主が自由に価格を決められるケースが多いです。その結果、著しく低い価格などで不動産を取引してしまうと「租税回避を狙った」と税務署に判断され、該当する親族間売買に対して「贈与税」を課せられる恐れがあるのです。

みなし贈与の判断基準は明らかになっていません。ただし、故意でなくても明らかに相場よりも安い取引だった場合、税務署によって「みなし贈与」とされる可能性があることもあらかじめ理解しておきましょう。

親族間売買のメリット

親族間売買のメリットは、買主を探す手間とコストの削減のほか、売却条件の融通を利かせやすく、身内が買主のため柔軟な取引が可能なことが挙げられます。それぞれの詳細を確認してみましょう。

不動産の買主を探す必要がない

親族間売買の大きなメリットの1つが、売主と買主があらかじめ決まっているため「不動産の買主を探す手間が省ける」ということです。通常、所有する家や土地を売却する際は買主を探すところから始めるのが一般的です。また所有する不動産によっては買主が見つかるまでに数年かかってしまうなど、計画的に資産を手放しにくいといったデメリットも十分考えられます。一方、親族間売買では買主を探す工程を一気に省けるため、売主にとっては円滑に不動産を売却できるというメリットを得られます。

売却の条件を柔軟に決められる

親族間売買は、仲介や個人間売買と比べると、親族という関係性から売主と買主が売却条件を調整しやすいのもメリットといえます。不動産売買では、あらかじめ設定していた売買価格や引き渡しの時期を都度、売主と買主で相談(交渉)して決めるのが一般的です。さらに契約時の手付金や残代金の精算といった条件も取り決めなければなりません。仲介会社に任せても、売主が希望する条件にならない可能性は十分に考えられますし、最終的な判断は都度、自身で下していく必要があります。

お互いの現状や希望条件などを、勝手知ったる親族であれば、メリット・デメリットも調整しやすいでしょう。売却金額を含め、第三者にはない「妥協点」などを調整しやすいのは親族間売買ならではの特長と考えられます。

特定の相手に不動産を引き継げる

夫婦間や兄弟間、親子間など不動産の売主と買主が他人ではないので、売却後の売主の不動産への関わり方を考慮して引き継げるのも親族間売買のメリットです。基本的に第三者に売却した場合、買主が不動産を使用するため、売主が関与することはもちろん、希望する不動産用途の実現は難しいでしょう。一方、不動産の買主が子どもであれば二世帯、三世帯住宅として、売却後もマイホームとして住み続けやすくなります。さらに売主が不動産を活用して行っていた事業を買主がそのまま継承することも可能です。売主にとっては売却代金を得つつ、かつて所有していた不動産を一定の範囲内で使用しやすいと考えられます。

親族間売買の流れ

親族間売買の基本的な流れは、不動産の個人間売買と同じです。大まかなスケジュールとやるべき5つのポイントを以下でまとめたので確認してみましょう。

Step1.売買契約に必要な書類を入手する

買主が親族もしくは第三者のどちらであっても、高額な取引になる不動産売買においては、トラブル防止のために必要な契約書を作成して登記申請しなければなりません。そのため、なるべく早めに「契約書作成のための書類」と「登記申請のための書類」を入手しましょう。以下はそれぞれの代表的な書類です。

■売買契約

売主
・実印
・収入印紙(金額は売買価格による)

買主
・実印(現金での売買なら認印)
・収入印紙(金額は売買価格による)
・手付金

※売買契約手続きを仲介会社に依頼する場合には①本人確認書類(運転免許証などの身分証明書)、②仲介会社への報酬(仲介手数料など)が必要となります。

■登記手続き

売主
・実印
・印鑑証明書(作成後3ヵ月以内のもの)
・固定資産税評価証明書
・登記済権利証もしくは登記識別情報通知書 原本
・登録免許税(抵当権抹消などがある場合)

買主
・実印(現金での売買なら認印)
・住民票
・残代金および清算金
・登録免許税(所有権移転登記)

※登記手続きを司法書士に依頼する場合には①本人確認書類(運転免許証などの身分証明書の写し)、②司法書士への報酬が必要となります。

なお、原則売主の住民票は不要で住所変更登記がある場合のみ求められます。上記の書類は登記申請だけでなく、具体的な契約内容を決める際に求められるケースもあります。不動産売買のトラブルは、親族間であっても解決するために多額の費用が発生する可能性があるため、専門家の手も借りながら確実に備える必要があるでしょう。

Step2.不動産の売却価格を決める

不動産の売却価格は売主と買主の交渉によって決まります。第三者への売買では「時価」が参考になりますが、親族間売買においては売主・買主のどちらも時価よりも低価格の取引を希望する傾向があります。ただ、親族間売買における時価の明確な基準はなく、売主と買主の双方が納得したとしても税務署に「贈与」とみなされてしまうと、時価と取引額の差額分について、「贈与税」が発生する恐れがあります。

そのため、社会一般的な「時価」を考慮したうえで、売主と買主の希望を反映できる価格帯を模索しなければなりません。親族間売買の当事者に不動産売買の経験が少ない場合は、仲介会社、司法書士、税理士といった専門家の支援を受けて時価を設定することも有力な手段の1つといえるでしょう。

Step3.売買の条件を決める

不動産売買の条件は、売買代金だけではありません。手付金や売買代金の支払い方法、不動産の引き渡し日時、所有権の移転時期などを定める必要があります。また、一般的な不動産売買では契約内容に適合しない引き渡しが発生した際、売主側が負担する責任である「契約不適合責任」をつけるのが一般的です。ただ、親族間売買では設けないケースもあるので、あらかじめ同責任について売主と買主が認識を共有しておくことをおすすめします。

Step4.売買契約を締結して決済をする

契約書を作成した後、当事者が契約書に署名捺印を行って売買契約を締結します。その後、代金の支払いと同時に登記を行う「決済」をすることになります。なお、売買契約日と決済日は別の日とすることが多く、売買代金や書類の準備、諸手続きを考慮して契約日と決済日は数週間から1ヵ月ほどの期間を設けるのが一般的です。ただ、親族間売買においては契約当事者が親族ということもあり、売買契約の締結、代金の支払い、登記申請を同日に行うなど、各手続きを柔軟に決めることも可能です。登記申請後、法務局にて登記識別情報を取得できたら、親族間売買における売買契約と登記の手続きは完了です。

Step5.確定申告をする

譲渡所得税や登録免許税、不動産取得税など、不動産売買では売主と買主のどちらに対してもさまざまな税金が発生します。一部の税金は当事者自ら手続きを行わなければならないものもあるため、適切に確定申告して納税しましょう。税務手続きの完了が、親族間売買のゴールといえます。

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親族間売買をするときにかかる費用と税金

親族間売買には必ず発生する税金や費用が複数存在します。売却価格によっては売主と買主の双方の大きな負担になるケースもあるため、あらかじめ大まかな金額を把握しておくことが大切です。

登記にかかる登録免許税

登録免許税とは、不動産の登記手続きの際に国に納める税金です。納税額は「土地や建物の評価額×税率(登記の種類によって異なる)」で求められます。

・土地の所有権移転登記:評価額の2.0%
・建物の所有権移転登記:評価額の2.0%
・抵当権の設定登記:融資額の0.4%

※軽減措置と居住用として適用要件を満たせば以下の通りとなります。

・土地の所有権移転登記:評価額の1.5%
・建物の所有権移転登記:評価額の0.3%
・抵当権の設定登記:融資額の0.1%

親族間売買でも居住用なら建物は軽減措置が利くことが多く、納税額は評価額の0.3%が多いです。

売買契約書に貼る収入印紙税

登記だけでなく、売買契約書を交わす際にも税金は発生します。収入印紙税です。売買代金によって納税額は異なります。例えば、1000万円を超え5000万円以下の取引であれば、契約書原本1部につき軽減措置で1万円(2024年4月1日以降は3万円)の収入印紙が必要です。売買契約書を売主と買主の計2部作成するなら、2万円の収入印紙税が発生します。なお、売買代金が1万円未満なら非課税です。

司法書士への登記報酬

不動産の登記申請は当事者が行うことも可能です。ただし、手続き内容が非常に専門的であり、状況によっては抵当権抹消登記や住所変更登記といった複数の手続きを行わなければなりません。そのため親族間売買においても、不動産登記の専門家である司法書士に手続きを依頼するのが一般的です。登記報酬の目安は10~20万円程度で、地域や事務所によって異なります。

譲渡所得にかかる税金(売主側)

売主が不動産売買で得た所得に対して「譲渡所得税」が課せられます。親族間売買も例外ではなく、課税譲渡所得額×税率で求めることができ、売主は資産を譲渡した日の属する年の翌年2月16日から3月15日の間に確定申告しなければなりません。

課税対象となる課税譲渡所得額は、「売買代金-(取得費+譲渡費用)-特別控除額=課税譲渡所得額」で求められます。さらに税率は所有期間によって「短期譲渡所得(土地・建物の所有期間が5年以内)」、「長期譲渡所得(同所有期間が5年超)」と異なります。毎年、1月1日の時点で5年超もしくは5年以内を判断することも覚えておきましょう。

例えば、2020年11月取得で2025年12月に売却した場合、譲渡所得税において5年超になるのは2026年1月1日なので、2025年12月は5年以内で「短期譲渡所得」になります。一般的な数え方とは相違があるので注意してください。

不動産取得税(買主側)

売買によって不動産を取得した際、取得者(買主)は「不動産取得税」を支払わなければなりません。不動産取得税は「取得した不動産の価格(固定資産税評価額)×税率」で算出できます。固定資産課税台帳に記載されている価格が「固定資産税評価額」であり、税率は基本的に3%となります。

親族間売買をするときの注意点

親族間売買を検討する際は、贈与とみなされる可能性など、第三者への売買にはないデメリットについて十分に考慮することが大切です。代表的な3つの注意点を紹介します。

「みなし贈与」と判断される可能性がある

親族間売買ならではの注意点が、税務署から売買ではなく贈与とみなされて贈与税を課税されてしまう「みなし贈与」です。時価と比較して不動産を著しく低い価格で売買すると、みなし贈与に該当するリスクが高まります。当事者同士が売買のつもりでも税務署から贈与とみられてしまいます。みなし贈与かどうかを判断する「時価」は明確な判断基準が公開されていません。そのため売買価格については、一般的な不動産売買における時価の範囲内で調整する意識が大切といえるでしょう。

住宅ローンを利用できない傾向にある

一般的な不動産売買の買主が利用する「住宅ローン」は、親族間売買では利用できないケースが多いです。その理由の1つに、親族間売買は仲介会社を介さずに直接取引することが多いため、住宅ローンを提供する金融機関が不動産の価値を適切に判断するのが難しいという点が挙げられます。住宅ローン審査の際、金融機関から「重要事項説明書」の提出を求められるのが一般的です。「重要事項説明書」は、宅地建物取引業法に基づき仲介会社(宅地建物取引業免許を持つ不動産会社)が作成するもので、売買対象の不動産に関する所定の事項や売買取引の詳細などが記載されます。金融機関はこの重要事項説明書も参考にして不動産の価値を判断します。そのため、仲介会社を介さない(重要事項説明書が作成されない)親族間売買であると、金融機関へのローン申込みに必要な書類が揃わないことになってしまうのです。つまり、親族間売買の買主が金融機関から住宅ローンを借りたい場合は、仲介会社を介した売買とする必要があります。

譲渡所得にかかる税金の控除が適用されない

親族間売買における譲渡所得税は、一般的な不動産売買で利用できる税額控除の制度が適用できないことが多いです。居住用不動産を売買すると、適用条件を満たせば譲渡所得が3000万円まで控除される居住用不動産の特別控除が利用できます。ただ、適用条件に「売手と買手が、親子や夫婦など特別な関係でないこと」とあるため、親族間売買ではこの特別控除を受けることができません。そのため、売主は譲渡所得税を支払わければならないことが多いのです。

親族間売買は計画的に検討、実施しましょう

親族間売買は贈与や第三者への売買にはないメリットがありますが、計画的かつ適切に行わなければ税金や親族間のトラブルに発展するリスクも存在します。そのため専門家や専門会社の力を借りるのも「賢い親族間売買」を実現する重要なポイントです。例えば、住宅ローンの利用が難しい場合は資産承継型不動産売買のための不動産購入ローン「資産承継ローン」を活用することで、無理なく負債整理、相続対策、老後資金の確保といった課題解決を図りやすくなります。

参考URL:https://www.shinsei-if.com/loan/succession/

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