資産承継×金融の知識コラム

*本記事の内容は、一般的な情報を基に作成したものであり、特定の金融機関等を指したものではありません。
 詳細については、各金融機関等にお問い合わせください。

公開日:2023/5/23
#03

資産の法人化で効率的な相続を
主なメリットや気をつけたい注意点

収入や資産の多い個人事業主にとって、節税対策・相続対策として有効なのが、「資産の法人化」です。法人を設立し資産を移し、事業での売上や経費計上を法人で行うことで、利益に対して発生する税額を少なくすることができます。相続や贈与の場面でも節税効果が高いことから、賃貸業を営む収益不動産のオーナーをはじめ、多くの方が実施しています。

今回は、資産の法人化について解説します。メリットや注意点などをポイントごとに説明しますので、最後までチェックしてください。

■この記事の監修者

山本 典之

大学卒業後、PwC あらた有限責任監査法人にて主に大企業を対象とした法定監査業務、各種アドバイザリー業務に従事。
東日本大震災を契機として自分が有する専門的な知識・経験を活かし、中小企業(個人事業主)のサポートを開始。
2013年より国が設立した㈱東日本大震災事業者再生支援機構にて勤務。2022年より中小企業基盤整備機構 中小企業活性化全国本部にて勤務。
山本典之公認会計士・税理士事務所のHPはこちら

法人化の基礎知識

法人化(法人成り)とは

法人化とは、法人を設立し、個人で行っていた事業をその新法人に引き継ぐことを指します。法人化では、個人の所有する資産や負債についても、資産は売買契約、債務は引受契約を締結し、新法人に引継ぎます。発起人として資本金も自らで出資する場合は、自らが経営者であり、その法人の株主となります。

法人化によってできること

法人化によってできることが、税負担の抑制です。

個人の場合、収入から経費や所得控除を差し引いた課税所得に対し、所得税や住民税が課税されます。この内、所得税率は累進課税制度が採用されており、所得が多くなるほど税率が上がってしまいます。一般的に、課税所得が900万円を超えるタイミングで所得税率が法人税率を上回ってしまうため、これを超す所得がある方は法人化により実効税率を下げることができる可能性があります。

また、法人は事業で赤字(純損失)が発生した際にもメリットがあります。青色申告をしている個人事業主は、その年に生じた欠損金を翌年以後3年間繰り越しができます。法人の場合、欠損金を繰り越せる期間が10年間となります。

この他にも、法人から自らに給与や退職金を支払うことで、給与所得控除や退職所得控除などの控除を受けることができます。こういった法人にしか適用されていない控除をうまく使うことで、税負担を軽減できる可能性があります。

資産の法人化によるメリット

個人事業主にとって、法人化は有力な節税対策となります。所得を個人と法人に分散することで所得にかかる税負担を抑えることができます。こういった法人化のメリットについて、3つご説明します。

メリット1:役員報酬という形で資産を転嫁できる

法人では、役員に対して「役員報酬」という給与を支給することができます。前述した通り、個人に対してかかる所得税は累進課税制度です。収入が多くなるほど、全て個人で受け取るよりも、法人で受け取り、その何割かを役員報酬として個人に分散する方が、全体としての税負担は少なくなります。この場合、法人では給与は経費化されます。役員報酬の額をうまく調整することで年間の課税所得金額の分散効果が発揮され、個人にかかる所得税と法人税の総額を抑えることができます。

また、役員報酬は親族へ現金を渡す目的でも利用することができます。相続人となる親族を法人の役員として雇い役員報酬を支給することで、実質的な資産の生前贈与が可能になります。生前贈与の場合、贈与税率は最大で55%にも上ります。しかし役員報酬はあくまで給与所得として扱われるため、贈与税はかかりません。所得にかかる所得税を考慮してもなお、実質的な税負担を下げられる可能性があります。特に、収益物件から家賃収入などの不動産所得を得る個人事業主であれば、建物や土地など将来相続税が発生し得る固定資産を所有していることから、このメリットは大きいでしょう。

・贈与税の税率・控除額

以下の表が、贈与税の税率と控除額です。

贈与税には特例贈与(父母や祖父母などの直系尊属から、その年の1月1日において18歳以上の子や孫への贈与)と一般贈与(特例贈与以外の贈与)があり、特例贈与は一般贈与より控除額が多めに設定されているという違いがあります。

一般贈与 特例贈与
課税価格 税率 控除額 税率 控除額
200万円以下 10% 0円 10% 0円
200万円超300万円以下 15% 10万円 15% 10万円
300万円超400万円以下 20% 25万円
400万円超600万円以下 30% 65万円 20% 30万円
600万円超1,000万円以下 40% 125万円 30% 90万円
1,000万円超1,500万円以下 45% 175万円 40% 190万円
1,500万円超3,000万円以下 50% 250万円 45% 265万円
3,000万円超4,500万円以下 55% 400万円 50% 415万円
4,500万円超 55% 640万円

メリット2:相続時に課税される資産が少なくなる

相続の対象となる資産を法人化しておくことで、資産の評価額を下げる効果を見込めます。例えば、被相続人のすべての資産を資産管理会社に移し、資産管理会社の株式を100%保有する場合、相続税の対象となるのはその資産管理会社の株式のみになります。

上場していない株式の評価方法は様々あるため、その評価方法次第では、移した資産総額の評価額よりも法人株式の評価が低くなる場合もあります。この評価の差額分だけ、相続税の節税効果が発生します。

メリット3:資産を分割しやすくなる

資産を資産管理会社に移し法人株式という形に変えることで、資産が分割しやすくなるというメリットもあります。資産の中でも不動産は金額が大きく、株式や現金のように分割して少しずつ贈与や相続を行うことができません。しかし、不動産を法人の持ち物にした上で、その法人の株式を少しずつ贈与すれば、不動産を間接的に子や孫に渡していくことが可能です。

こういった少額贈与で利用したい制度が、(1月1日から12月31日までの)の贈与額が110万円以下ならば贈与税がかからない「暦年贈与」という制度です。この制度を利用して毎年の贈与額を110万円以内に抑えれば、分割した法人の株式を、贈与税を発生させずに移していくことが可能です。そういったことから、このメリットは不動産事業を営まれる方にとって、特に有効です。

なお現在は、贈与から3年以内に贈与者が亡くなった場合について、贈与財産は相続財産とみなされて相続税の対象となりますが、令和6年以降に贈与される財産については、この期間が順次7年まで延長されるので注意が必要です。例外や他の相続関連制度との兼ね合いもあるため、詳しくは税理士などの専門家に相談するのがよいでしょう。

出典:財務省HP

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資産相続のために法人化を利用する仕組み

では、ここからは資産相続のために法人化を利用する手続きについて見ていきましょう。

法人を設立する

法人を設立するためには、以下の手順があります。

①法人のきまりをつくる
社名や所在地、資本金の額、設立日、会計年度(何月決算にするか)、株主の構成などを決めます。

②法人印鑑をつくる
法務局に設立登記をするにあたって、法人の実印が必要になります。

③定款をつくる
定款とは法人運営のルールをまとめたもので、商号や事業目的、本店所在地などが記載されます。株式法人の場合、この定款を公証役場に提出して認証の手続きが必要となるため、準備しましょう。なお、定款はインターネットで雛形を探すもよし、司法書士に任せるのもよしです。

④資本金を払う
定款が認証された後は、法人発起人個人の口座に資本金を支払います。この資本金は法人運営のための各種費用の支払いに必要となることから、最低でも初期費用に3ヶ月分の運転資金は用意しておくとよいでしょう。

⑤法務局に設立登記を申請する
最後に、法務局に対して法人設立の登記を申請します。この申請には申請書の他、定款や取締役の就任承諾書、印鑑届など、さまざまなものを準備しなければなりません。忙しい場合は、司法書士などに依頼するのがおすすめです。

設立した法人に被相続人の資産を売却する

被相続人の資産を法人のものにするためには、法人に対して資産を売却する必要があります。不動産であれば個人が売主、法人が買主の売買契約を締結し、法人から個人に対して時価で取引を行います。資産を法人に売却する理由は、贈与より税負担が少なく資産を法人に移せるからです。資産を売却(譲渡)した際には、財産の時価から取得費用等を差し引いた利益に対して所得税が課税されます。個人は譲渡所得を税務署へ申告し所得税を納付しますが、法人は時価で取得しているため取得時においては税金が発生しません。一方、無償で贈与する場合は、贈与を受けた法人は、受贈益(時価相当の不動産を無償で取得した利益)に対して法人税が発生します。個人に対しても財産を時価で売却し収入があったとみなされる「みなし譲渡所得課税」が発生するため、二重で税金がかけられてしまうのです。こういったことから、資産を移す際には売買によることをおすすめします。

資産相続のために法人化を活用する際の注意点

ここまで法人化のメリットについて説明しましたが、資産や事業年収が少ない場合は、節税効果よりデメリットが上回る可能性があります。ここではこういった注意点について説明します。

相続する資産額によっては法人化のメリットが少ない

相続税は基礎控除を超えた分に対して課税されるため、相続財産が基礎控除を超えない場合は、個人の資産を法人化するメリットはありません。

具体的には、相続税の基礎控除の額は、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算します。例えば、配偶者と子供3人に対し相続が発生する場合、3,000万円+600万円×4=5,400万円が基礎控除の金額となります。つまり、相続対象の資産が5,400万円以下の場合には相続税が発生しないことから、個人資産を法人化するメリットはないことになります。

法人を運営するための手間やコストがかかる

法人を運営するにあたっては、会社法に則った運営が必要となります。また、会計や財務に関する事務作業が発生したり、税理士に依頼するコストが発生したりします。設立に関する費用だけでも、法人の設立登記や定款作成に伴う法務局への書類提出において司法書士へ費用を支払ったり、登録免許税が発生したりします。法人に対して掛かる法人税・法人住民税・事業税などの税金も納める必要があることから、これらのコストと節税効果のどちらが高いかをよく比較してから始めるとよいでしょう。

法人側に個人の資産を買い取る資金が必要になる

被相続人の資産を法人が買い取るにあたり、法人には相応の資金が必要になります。

例えば、不動産経営などの資産運用を行う個人事業主が法人化する場合、個人所有の物件を法人に移転させるために、個人と法人の間で売買契約を締結しなければなりません。法人から個人へは時価で売買するため、法人側は数千万円~数億円もの準備しておかなければならない可能性があります。銀行から融資を受けることも可能ですが、借入金には利息が発生するため、それらのコストも考慮する必要があります。

資産の法人化で計画的な資産運用を行おう

今回は資産の法人化について説明しました。資産を法人化することで、所得税だけではなく、贈与税および相続税などの節税効果を得ることができます。ただし、法人を設立するにあたっては様々な費用が発生するため、資金調達をした上で費用対効果をしっかりと検証して実施するようにしましょう。

なお、資金調達の1つの手法として、資産承継ローンがおすすめです。資産承継ローンは、負債整理、相続対策、老後資金確保などの課題を抱える不動産所有者の方が、家族や資産管理会社へ不動産を承継する際に必要となる資金を融資いたします。興味がある方は、是非一度チェックしてください。

参考URL:https://www.shinsei-if.com/loan/succession/

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