不動産×金融の知識コラム
*本記事の内容は、一般的な情報を基に作成したものであり、特定の金融機関等を指したものではありません。
詳細については、各金融機関等にお問い合わせください。
正しく利用して事業拡大を
不動産担保ローンは、銀行やノンバンクなどの金融機関等から資金を借り入れる手段の一つです。その名の通り不動産を担保とするのが特徴であり、この点を反映したメリットとデメリットがあります。正しく使えば高い効果を発揮する一方で、返済能力を見極めることなく乱用すると事業のキャッシュフローを圧迫するリスクもあります。
そこで今回は、不動産担保ローンのメリットとデメリットを改めてご説明するとともに、よくある活用例をご紹介したいと思います。どんな場面で利用されているのか、参考にしていただければ幸いです。
■この記事の監修者
陳野 克己
新生インベストメント&ファイナンス株式会社 融資業務部 顧客サービスチーム セクションチーフ
お客さまからの問い合わせ、相談、要望等についてのカスタマー業務のほか、
ご融資契約・実行業業務他、顧客管理業務全般を行っている。
保有資格:貸金業取扱主任者

不動産担保ローンを利用するメリット
まずは不動産担保ローンのメリットを3点ご紹介します。限度額・金利・自由度の面で優位性を持つことをご理解いただければと思います。
借入限度額を高く設定しやすい
不動産担保ローンは、担保を差し入れてお金を借りる「担保ローン(担保融資)」の一種です。数百万から億を超えるような資産価値を持つ不動産が担保として差し入れられるために、担保の不要な「無担保ローン(無担保融資)」と比較して借入可能な金額が多い傾向にあります。
無担保ローンの代表格であるカードローンやビジネスローンですと、せいぜい1,000万円程度の融資額が限度額になっている場合が多く見受けられます。そのため、大規模な事業資金の調達には不向きとされています。
しかし不動産担保ローンですと、家や土地の評価額次第では億単位の借り入れも可能です。しかも利用の際に連帯保証人は原則不要です。もちろん、借り入れの金額が大きくなるとその分だけ返済が大変にはなりますが、これが事業を一気に拡大させるだけの可能性を秘めたローンであることはご理解ください。
ただし、いくら多額の資金を借りられる可能性があると言っても、場合によっては一定の限度が存在することを覚えておきましょう。不動産担保ローンのみならず、ローン全般に適用されるルールを「総量規制」と呼び、個人の方へは年収の3分の1を超える貸し付けはできないと法的に決まっています。
実は不動産担保ローン自体は総量規制の対象外なのですが、個人かつ自宅を担保とした場合のみ対象内とされています。該当する場合は、収入がずばぬけて高くない限り億単位の借り入れはできません。
また、総量規制ではご自宅などの生計を維持するために不可欠なものを担保とした場合のみ対象とされていますが、担保不動産がご自宅以外の不動産(賃貸アパートや駐車場など)であれば、「除外」とされる貸付があります。「除外」の貸付は総量規制対象の貸付残高には含まれません。
なお、不動産評価額がそのまま借入額と判断されるわけではありません。不動産評価額は災害や事件・事故などによって大きく変動する可能性があるため、不動産担保ローンにおいて融資可能額を算出する際は、「担保掛目(あるいは掛目)」と呼ばれる値を担保価値にかけ算します。
担保掛目(あるいは掛目)は金融機関等によって異なりますが、平均60~80%程度とされていることが多く見受けられます。
毎月の返済額を抑えられる
担保がある分だけ、カードローンやキャッシングなどの無担保ローン(借入限度額により金利が変わる場合がある)に比べ、低い金利でお金を借りられる可能性が高いケースがあります。
不動産担保ローンでは、下限金利が年率一ケタ台となる場合が多いようです。つまり、毎月の返済額を抑えられることになります。
返済期間も長めで、中には最長35年としている不動産担保ローンもあるほどです。ただし、返済期間を長くすると返済総額は膨らんでしまいますので注意が必要です。
資金使途の自由度が高い
不動産担保ローンの大半は、資金使途を制限していない金融機関等が多く見受けられます。
住宅ローンの借り換えや教育資金のみならず、もちろん事業資金にも使用できます。そのため、開業資金や事業運転資金など、さまざまな場面に使いやすいのがポイントです。
ただし、主に銀行の不動産担保ローンの場合、個人向けと法人向けで資金使途の自由度が違う場合もあるようです。
詳細については、ご検討中の各金融機関等にご確認ください。
不動産担保ローンを利用するデメリット
不動産担保ローンにはデメリットもあります。不動産を失うリスク、審査が厳しいリスク、不動産の担保価値を厳しく吟味されるリスクがあることをご理解ください。
返済が滞ると不動産を失うリスクがある
不動産担保ローンを利用する際には、債権者が担保不動産に「抵当権」などの担保権を設定します(この際登記費用や司法書士に対する報酬などのコストが発生します)。万が一ローンを返済しきれず返済不能となった場合は、一般市場で担保不動産を売却、その売却代金で返済する「任意売却」、又は債権者が担保権を行使して裁判所の権限で担保不動産を差押え強制的に売却する「競売」があります。お金を借りたからには、返済の義務を果たさないと不動産を失ってしまいます。
また月々の返済遅延が続くと、信用情報機関に登録される可能性があります。
融資実行までに一定期間を要する
利用者自身だけでなく不動産も審査する必要がありますし、借入希望額も大きい場合や不動産の種類によっては、無担保ローンに比べると手続きにかかる時間が長期化する傾向にあります。利用者の信用力や不動産の所在地確認、評価額の鑑定など、ローン審査基準が多岐にわたるのです。
審査期間は利用者や不動産によって異なりますが、カードローンのように最短即日完了というわけにはいきません。余裕をもって、1~2週間は前倒しで申し込みを行うとよいでしょう。
価値が低い不動産は担保にできない可能性がある
流通性が低い=資産価値の低い不動産は、担保価値も低くなります。仮に担保にできたとしても借りられる金額が少なくなったり、場合によっては担保にできないケースもあったりします。
例えば再建築不可能な物件や、災害リスクの高い立地にある物件、老朽化した建物などがそれにあたります。また担保にはできたとしても、契約後に担保とした不動産の価値が下がった場合、「追加担保」を請求されることもあります。
ローンを申し込む前に、公表されている「路線価」などを利用して不動産の価値を調べておくことをおすすめします。
不動産担保ローンの活用例
不動産担保ローンのメリットとデメリット両面を理解し、正しく活用することが大切です。最後に参考として、不動産担保ローンの主な活用例をご紹介します。
開業資金として
よくある活用例は、店舗の開業資金とするものです。小売店や飲食店などを開業する際に使います。
不動産担保ローンがよいのは、借りやすいからです。一般的なビジネスローンは、新規事業に対して利用しにくい面があります。どうしても収益の見通しが不明瞭であり、銀行をはじめとした金融機関等では審査が通りにくいためです。
これに対し不動産担保ローンの場合は、利用者の信用情報や不動産の資産価値と事業の将来性までを加味した総合的な判断で融資を行ってもらえます。
運転資金、納税資金として
開業資金のみならず、事業所の移転や社会保険料・厚生年金保険料の納付など、事業においてまとまった資金が必要な場面で、広く不動産担保ローンが利用されています。一時的にお金を借り入れて資金繰りの厳しい時期を乗り越え、後から返済するスキームをとっている企業は決して少なくありません。開業資金として利用する場合もそうですが、事務手数料を初めとした諸費用が発生する点は注意しましょう。
おまとめローンとして
おまとめローンとは、複数のローンを別のローンへ一本化することです。
複数のローンを契約していると返済日まで複数になって支出管理が煩わしくなるため、不動産担保ローンで支払いを一つにまとめます。
おまとめローンとして不動産担保ローンを活用すると、単に支払いが一つになるだけではなく、金利が下がって返済総額を抑えられる可能性もあります。
不動産担保ローンの「正しい姿」を理解して
「正しい使い方」を心がけよう
ほかの物品に比べて高い価値を持つ不動産を担保とする分だけ、不動産担保ローンを利用すると高額のお金を低い金利で借りやすくなる可能性があります。その一方で返済しきれなくなった場合のリスクも高いため、返済の見通しが立たない場合はみだりに利用するべきではないかもしれません。最後にご紹介した活用例のように、近い将来における事業の収益性や返済計画があることを事前に確認するようにしましょう。